著者:ジャック・ノリス(管理栄養士、Vegan Outreach理事)

目次

ヴィーガンの人やヴィーガン食を目指す人の多くは、健康でバランスの取れた食生活に関心があり、栄養について十分な情報を得たいと考えています。ヴィーガンは、 2 型糖尿病(12)や高血圧 (34) のリスクが著しく低く、平均してコレステロール値も低いです (5)。

ヴィーガンでいることで健康面において利点はありますが、注意すべき栄養素があるということもお伝えしていきます。この記事は、ヴィーガン食の栄養について知っておくべき全ての情報をお伝えすることを目的としています。詳しい内容をご希望の方のために、各栄養素についての情報をリンクでご覧いただけるようにしています。

様々な植物性食品に含まれる栄養素

タンパク質と鉄分は一般的に、ヴィーガン食では摂取するのが難しいと思われがちですが、実際にはほとんどの人が簡単に摂取できる栄養素です。

タンパク質

「どうやってタンパク質を摂取しているのか」という質問は、ヴィーガンの人が一番よく聞かれる典型的なものです。タンパク質は全ての植物性食品に含まれているため、この質問に端的に答えるのは少し難しいのですが、つまりヴィーガンの人なら食べるもの全てからタンパク質を摂取できているということです。

ただし、植物性食品にはタンパク質の含有量に差があり、その中の高タンパク質食品を避けたりすると、動物性食品が食べたくなったり、疲れを感じるようになったりする場合があります。

タンパク質
を多く含む
植物性食品:
枝豆、グルテンミート&大豆ミート、エンドウ豆、ピーナッツ、豆腐、テンペ、レンズ豆、豆類、ひよこ豆、豆乳、キヌア

植物性タンパク質と動物性タンパク質の違いについての詳細をご覧になりたい方は、VeganHealth.org の記事「ヴィーガンの人に必要なタンパク質」をご参照ください。

大豆

タンパク質と言えば、大豆食品はその高いタンパク質含有量から、伝統的に多くのヴィーガンの主食となってきました。大豆は有害であるという作り話が出回っているため敬遠する人もいますが、1日2食分の大豆食品は全く安全であるという科学的証拠はたくさんあります。それ以上の摂取量もおそらく安全ですが、そこまで徹底的には研究されていません。 私自身ヴィーガンの栄養士であるアスリートとして、また大豆に関する科学的研究に精通している者として、好きなだけ大豆を食べています。

大豆に関する研究の中で最も進んでいる研究分野は乳がんに関するものです。大豆が乳がんのリスクを下げるという膨大な量の症例があります。大豆が、LDLコレステロールを低下させることにより、前立腺がんや心臓病のリスクを下げることを示す症例もあります。詳しくは、こちらの記事「大豆: 主な議論」をご覧ください。

大豆:
豆腐、テンペ、枝豆、絹ごし豆腐で作ったチョコレートプリン、豆乳、豆乳ヨーグルト、豆乳アイスクリーム

豆腐は非常に用途の広い大豆食品で、アジア文化圏の一部では何百年にもわたり食されてきました。揚げたり焼いたりとどんな料理にしても楽しめます。冷凍して解凍すれば、モチモチとした食感も楽しむことができます。豆腐はそのままではあまり味がありませんが、組み合わせることで料理の味を引き立ててくれます。

豆腐は通常、カルシウム塩で作られているため、ヴィーガンにとっては豊富なカルシウム源のひとつということになります(原材料に「カルシウム」が含まれているかどうか確認してみてください)。

豆腐の種類のひとつである絹ごし豆腐は、滑らかな食感で、プリンやムース、クリーム系のパイを作るのに使われます。絹ごし豆腐は、豆腐売り場で簡単に見つけることができます。

ほとんどのヴィーガンは大豆食品を食べますが、他にも高タンパク質である食品はたくさんあるので、ヴィーガンになるために大豆食品を食べるという必要はありません。大豆アレルギーでない限り、世界中の人々と同じように、ヴィーガンであれ肉食であれ、大豆をおおいに楽しめます。

鉄分

鉄分と言えば赤身肉を連想する人が多いのですが、植物性食品には鉄分が豊富に含まれていて、ヴィーガンは肉食者よりも鉄分摂取量が多い場合が多いということを知ったら驚かれるかもしれません。
豆類(豆、エンドウ豆、レンズ豆)や色の濃い葉野菜(ほうれん草やコラードなど)を食べれていれば、ヴィーガン食品から十分な鉄分を簡単に摂取できます。
鉄分はその他の植物性食品にも含まれており、多くの国では鉄分が強化された植物性食品が販売されています。
黒糖蜜は、鉄分を多く含む糖蜜の一種です。

ヴィーガンとして鉄分の必要量を満たすためにさらに重要なことは、​​鉄分の吸収を高める働きをするビタミンCを多く含む食品を食事に取り入れることです。
例えば、朝食でオートミールを食べる時にオレンジジュースを一緒に飲むと、オートミールからは鉄分を、ジュースからはビタミンCを摂取できることになります。
下の画像では、ビタミンCを多く含む食品と一緒に、鉄分の吸収を大幅に高めるためにそれぞれどのくらいの量を摂れば良いかを示しています。

ビタミンC
を多く含む
植物性食品:
オレンジ(小1個)、
いちご(145 g)、
マンゴー(165 g)、
芽キャベツ(155 g)、
キウイ(1個)、
パパイヤ(145 g)、
グレープフルーツジュース(240 ml)、
赤・黄パプリカ(35 g)、
ブロッコリー(80 g)、
オレンジジュース(240 m)

ほとんどのヴィーガンは、貧血の既往歴がない限り鉄分についてあまり心配する必要はありません。例外として、月経期間中の長距離ランナーは、赤血球が大量に失われるため注意が必要です。鉄分不足になりやすい場合は、鉄分とビタミンCを多く含む食品を摂るようにし、食後1時間以内は、鉄分の吸収を低下させてしまうコーヒーや紅茶を避けましょう。

鉄分に関する追加情報はこちら。

植物性食品に含まれる栄養素

ヴィーガンの食生活では、カルシウムやビタミンA、オメガ3脂肪酸の摂り方に注意を払う必要があります。それではこれらの栄養素をどのように摂れば良いか、ここでお伝えしていきましょう。

カルシウム

成人のヴィーガンは、1日あたり良質なカルシウムを3食分摂る必要があり、10代であれば4食分摂る必要があります。以下の写真付きリストでは、日本で簡単に手に入れることできる良質なカルシウム源をご覧いただけます。それぞれ1食分で使うにはどれだけの量が適しているかを示しています。

カルシウム
を多く含む
植物性食品:
ブロッコリー (155 g)、
チンゲン菜 (170 g)、
ドライいちじく (75 g)、
オレンジ ジュース (カルシウム強化、120 ml)、
豆腐 (カルシウム凝固、125 g)、
からし菜(70 g)、
かぶ菜(70 g)、
豆乳(カルシウム強化、160 ml)、
芽キャベツ(155 g)、
コラードグリーン(95 g) 、
ケール(120 g)

植物性ミルクには、カルシウムが強化されているものとそうでないものがあるので、ラベルを確認するようにしましょう。カルシウムを摂るために私が好んで食べている食品のひとつは、カルシウムとタンパク質が豊富で骨に良いとされるカルシウム強化豆腐です。カルシウムを多く含む食品を毎日食べるのが面倒な場合は、1日500 mg程度のカルシウムサプリメントを摂ることもひとつの方法です。

週に2回、適度な量の重量挙げのようなレジスタンス運動をすることは、骨の強度を高めるためには最も的確な運動と言えるでしょう。私たちはこのような運動を継続的にすることをみなさんにお勧めしています。どんな運動プログラムがご自身にあっているか、ぜひ専門家に相談してみてください。

カルシウムに関する追加情報はこちら。

ビタミンA

ビタミンAは、夜間視力に重要なもので、骨にも重要なものです。
ヴィーガンは、良質なビタミンAを毎日2食分以上摂る必要があります。
ニンジンなどの根菜類(80 g)、カボチャ (125 g)、メロン (350 g) など、果肉がオレンジ色の野菜や果物が、ビタミンAの良い摂取源です。
このオレンジ色はβ-カロテンで、私たちの体内でビタミンAに変換してくれます。
色の濃い葉野菜(調理済み150 g)にもビタミンAが多く含まれています。
一般的には果肉が黄色の食品は、ビタミンAの摂取源とするには良いものではありません。

ビタミンA
を多く含む
植物性食品:
ニンジン 40 g、
キャロットジュース 60 ml、
ほうれん草 調理したもの 90 g、
バターナッツ・カボチャ 50 g、
南瓜 60 g、
さつま芋 中サイズ 1/4本、
マスクメロン 180 g

ビタミンAの必要量を満たすのに最適な料理には、パンプキンのマカロニ・アンド・チーズがあります。

「パンプキンのマカロニ・アンド・チーズ」レシピ

  • パスタ 約340 g〜450 g
  • かぼちゃのピューレ 約425 g
  • ガーリックパウダー 小さじ約1/2
  • 塩 小さじ約1/2
  • オリーブオイル 大さじ約2
  • 無調整豆乳 240 ml
  • ニュートリショナルイーストまたはヴィーガンチーズ 約80 g

パスタを茹でて冷ましておく。残りの材料を鍋に入れて中火にかけ、なじむまでかき混ぜる(約5分)。パスタにソースを加える。食べる時に胡椒をふりかける。

Pumpkin Mac and Cheese; photo by Vegan Outreach

ビタミンAに関する追加情報はこちら。

オメガ3脂肪酸

オメガ3脂肪酸は心臓と脳の長期的な健康にとって重要ですが、限られた植物性食品にしか含まれていません。クルミ、キャノーラ油、亜麻仁や亜麻仁油、チアシード、ヘンプシード、エゴマ油にはオメガ3が多く含まれています。

オメガ3脂肪酸を毎日おいしく摂るには、朝食にもデザートにもなるチアシードプリンがおすすめです。

「チアシードプリン」レシピ

ボウルに以下の材料を入れ混ぜ合わせる。

  • 無糖タイプの植物性ミルク 415 ml
    (または、砂糖やメープルシロップなどの甘味料を入れていない加糖タイプの植物性ミルク)
  • 砂糖類 大さじ約1~2
    (砂糖やメープルシロップなど)
  • チアシード 約80 g
  • バニラエッセンス 小さじ約1/2~1(お好みで)

数時間冷やし、食べる前にかき混ぜる。
フルーツやピーナッツバター、チョコレートチップなどをトッピングするとさらにおいしくなりますよ。
冷蔵庫で保存しましょう。

「チアシードプリン」レシピ

ヘンプシードや粉末の亜麻仁を瓶詰めし冷蔵庫に常備しておくと、いつでも好きな時にその都度食べるものにお好みでふりかける楽しみ方もあります。どんな料理にも取り入れやすい方法でおすすめです。

オメガ3脂肪酸に関する追加情報はこちら。

サプリメントで最も簡単に摂取できる栄養素

ヴィーガンを始めて数週間や数か月で栄養不足になることはありません。これは自分のペースでヴィーガンになれるということであり、栄養のバランスについては後で心配すれば良いということでもあります。ヴィーガンとしてうまくやっていくには、長期的には、ビタミンB12、ヨウ素、セレニウム、ビタミンD、場合によっては亜鉛を確実に摂る必要があります。

  • ヴィーガン食におけるビタミンB12は、論争と神話を生み出してきました。植物性食品には、強化されていない限りビタミンB12が含まれていません。 確実な供給源を見つけられなければ、やがては疲労や手足の指のしびれが生じる可能性が高くなります。一方で、確実にビタミンB12を摂っているヴィーガンは、ヴィーガンでない人よりも健康なビタミンB12レベルを維持することができます。ビタミンB12に関する追加情報はこちら。
  • ヨウ素は健康な甲状腺を保つには重要なものです。ヨウ素は土壌のヨウ素含有量によって、植物性食品中に含まれる量にばらつきがあります。多くの国では土壌にヨウ素が少ないため、ヨウ素が添加された食卓塩もあります。ヨウ素添加塩か、ヨウ化カリウムを含むサプリメントからヨウ素を摂るようにしましょう。サプリメントで摂る場合は、昆布よりもヨウ化カリウムを選ぶと便利です。ヨウ素に関する追加情報はこちら。
  • セレニウムは多くの国の土壌で不足しているため、セレニウムを含むマルチビタミンが最も確実な供給源となります。セレニウムに関する追加情報はこちら。
  • ビタミンDが不足すると、疲労や筋肉痛、骨痛を引き起こす場合があります。ビタミンDは、日焼けするほどの直射日光を皮膚に浴びることで作ることができます(明るい色の肌の方は10~15分、濃い色の肌の方は20分、高齢者は30分)。皮膚がんを避けるために、皮膚科医は日光ではなくサプリメントからビタミンDを摂ることを勧めています。ほとんどの年齢層に勧められている食事摂取基準(DRI)は1日あたり600 IUです。ビタミンDに関する追加情報はこちら。
  • 品から摂る亜鉛の量は通常、ほとんどのヴィーガンにとっては十分なものですが、一部のヴィーガンでは少し不足する場合があります。亜鉛不足の症状としては、頻繁に風邪をひいたり、口角にひび割れができたりする、などがあります。亜鉛に関する追加情報はこちら。

おすすめのサプリメント

ヴィーガンであれば、下の表に記載されている量の栄養素を含むマルチビタミンを毎日摂ることをおすすめします。下記の量は、1日の推奨摂取量 (RDA) ではなく、ヴィーガンが通常食品から摂る量を考慮した上で、ヴィーガンとしての必要量を満たすものです。

栄養素 1日あたりの摂取量
ビタミンB12
   シアノコバラミンの場合: ≥ 5マイクログラム
   メチルコバラミンの場合: ≥ 25マイクログラム
ヨウ素 75~150マイクログラム
セレニウム 25~55マイクログラム
ビタミンD 600~1,000 IU
亜鉛 5~10 mg


これらの条件を満たすおすすめのひとつとして、ヴィーガンバイタル (Vegan Vital)というサプリメントがあります。プロワイズ・ヘルスケア・ヴィーガンバイタル (ProWise Healthcare Vegan Vital) のカプセル1つには、B12が200 μg、ヨウ素が75 μg、ビタミンDが300 IU、亜鉛が5 mg、セレニウムが27.5 μg含まれています。

参考文献

1. Tonstad S, Stewart K, Oda K, Batech M, Herring RP, Fraser GE. Vegetarian diets and incidence of diabetes in the Adventist Health Study-2. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2013 Apr;23(4):292-9.

2. Papier K, Appleby PN, Fensom GK, et al. Vegetarian diets and risk of hospitalisation or death with diabetes in British adults: results from the EPIC-Oxford study. Nutr Diabetes. 2019 Feb 25;9(1):7.

3. Fraser GE. Vegetarian diets: what do we know of their effects on common chronic diseases? Am J Clin Nutr. 2009 May;89(5):1607S-1612S. Epub 2009 Mar 25. Review. Erratum in: Am J Clin Nutr. 2009 Jul;90(1):248.

4. Appleby PN, Davey GK, Key TJ. Hypertension and blood pressure among meat eaters, fish eaters, vegetarians and vegans in EPIC-Oxford. Public Health Nutr. 2002 Oct;5(5):645-54.

5. Bradbury KE, Crowe FL, Appleby PN, Schmidt JA, Travis RC, Key TJ. Serum concentrations of cholesterol, apolipoprotein A-I and apolipoprotein B in a total of 1694 meat-eaters, fish-eaters, vegetarians and vegans. Eur J Clin Nutr. 2014 Feb;68(2):178-83.